
僕は脚本初心者なのですが、自分の書いた脚本を友達に読んでもらったとき「盛り上がりに欠ける」と言われました。実際、自分でもよく感じるのですが、クライマックスに向けて盛り上げようと書いても、イマイチうまく盛り上げることができません……。起伏のある面白いストーリーを書きたいのですが、どうしたらいいか具体的な方法を教えてください。

今回はこういった疑問に答えるべく、「シナリオ骨法十箇条その六、ヤブレ」について解説していきます。ストーリーを盛り上げるためには、ヤブレを作る必要があります。ヤブレこそがクライマックスを盛り上げるための最重要事項です。ヤブレとは何か?どうやったら書けるのか?今回の記事は、起伏のあるストーリーを作るための大きなヒントになるかと思います。
本記事の内容
- ヤブレってなに?
- ヤブレは2種類用意せよ
- ヤブレを作る際の注意点
- ヤブレを作る上で一番大切なこと
脚本初心者の悩みとして、「物語が盛り上がらない。起伏が少ない」ということがあると思います。
僕も元々はクライマックスの盛り上がりを書くのが苦手で、起伏のない平坦な出来損ないの脚本をよく書いていました。
最初は自分の書いたストーリーに盛り上がりがないということすら気づいていませんでした。というか、ほぼなんの意識もしてなかったんですね。
まずは意識の問題です。
「もっと面白い話を書きたい……じゃあどうやって面白くしようか」と考え、勉強して、実際に脚本を書いていくうちに「ストーリーを盛り上げるコツ」みたいなものがだんだんと分かってきました。
そこで今回は、ストーリーを盛り上げるためには絶対に必要なシナリオ骨法その六ヤブレについて解説していこうと思います。
シナリオ骨法その一〜その五までは、すでに解説済みですので、まだ読んでない方は下記リンクからどうぞ。
シナリオ骨法は、脚本を書く上でのエッセンスが満載です。知っておいて損はないでしょう。というか知らないと損します。
骨法その一、コロガリ>>>>【秘伝・シナリオ骨法十箇条】知らないと損する面白い脚本の書き方【その一、コロガリ】
骨法その二、カセ>>>>【秘伝・シナリオ骨法十箇条】知らないと損する面白い脚本の書き方【その二、カセ】
骨法その三、オタカラ>>>>【秘伝・シナリオ骨法十箇条】知らないと損する面白い脚本の書き方【その三、オタカラ】
骨法その四、カタキ>>>>【秘伝・シナリオ骨法十箇条】知らないと損する面白い脚本の書き方【その四、カタキ】
骨法その五、サンボウ>>>>【秘伝・シナリオ骨法十箇条】知らないと損する面白い脚本の書き方【その五、サンボウ】
骨法その一〜その五までは読み終えましたか?
ではさっそく、今回は骨法その六、ヤブレについて見ていきましょう。
本記事では、笠原和夫著『映画はやくざなり』に書かれた「シナリオ骨法十箇条」を元に、僕なりに解説しています。気になった方は本書を読んでみてもいいかもしれません。お金が無い方は、無理に買わなくてもこのブログ読んでおけばOKですよ。
ヤブレってなに?

ヤブレとは、主人公が再起不能なくらいのどん底に陥るパートです。
どん底から復活することでクライマックスに盛り上がりが生まれます。
ストーリーに高低差をつけるというイメージですね。
ですので、最大のヤブレは必ずクライマックスの前にきます。
シナリオ骨法十箇条が記してある『映画はやくざなり』にはヤブレについてこう書かれています。
破、乱調である。
どんなスーパーマンでも、一度は失敗やら危機やら落ち目に出くわさないと、観客からみて存在感が希薄になるものだ。
映画はやくざなり/笠原和夫
シナリオ骨法のヤブレは、ハリウッドの脚本術『SAVE THE CATの法則』で言うところの、まさしく「すべてを失って」のパートにあたります。
『SAVE THE CATの法則』では、「すべてを失って」について下記のように書いてあります。
「すべてを失って」では主人公は絶不調に陥ります。
主人公の人生はめちゃめちゃになったように見え、失意のどん底で希望のかけらもなくなります。(要約)
SAVE THE CATの法則/ブレイク・スナイダー
「ヤブレ」=「すべて失って」だということが分かると思います。
実は日本の脚本術も、ハリウッドの脚本術も言ってることは、ほぼ同じです。
脚本について勉強すればするほど、分かってくることがあります。
それは、人を感動させる物語の型は「世界共通」なんだということです。
まずは、ストーリーを面白くするために「ヤブレ」「すべてを失って」という要素が必要だということを知っておきましょう。
ヤブレは2種類用意せよ

ヤブレを大きく分けると2種類あります。
- 精神的なヤブレ
- 肉体的なヤブレ
この2種類を両方描く必要があります。
『映画はやくざなり』では、北野武監督の「あの夏、いちばん静かな海」を例に挙げ、この映画でヤブレを描くとするとどう描くべきかということが書いてあります。
職場を辞めた茂はそのことを貴子に伝える。
しかし貴子には真意を分かってもらえない。
茂は孤独になって酒場で飲む。
聾唖者であることが知られていないため、ちょっとしたことで喧嘩になる。
むろん茂は多勢に無勢、コテンパンにやられる。
映画はやくざなり/笠原和夫
これがヤブレです。
それでは、この例を元に2種類のヤブレについて見ていきましょう。
精神的なヤブレ
精神的なヤブレとは、上記の例でいうと・・・“
職場を辞めた茂はそのことを貴子に伝える。
しかし貴子には真意を分かってもらえない。
茂は孤独になって酒場で飲む。
この部分ですね。
主人公の精神的な失意を描くシーンです。
精神的なヤブレは、直接目で見て分かるものではありませんので、最初はどう書けばいいのか迷うことがあるでしょう。
精神的なヤブレを書くコツとしては、「主人公の孤独」を描くということです。
例えばこんな感じ
- 誰も自分の気持ちを分かってくれない
- どこにも居場所がない
- 好きだった人にフラれる
- 大切な人の死
これは人間誰しも、生きていく上で直面したことのある「孤独」だと思います。
主人公にこの孤独を背負わせることで、観客たちにも主人公のボロボロの感情(精神的なヤブレ)が伝わります。
肉体的なヤブレ
次に肉体的なヤブレとは、上記の例でいうと・・・
茂は孤独になって酒場で飲む。
聾唖者であることが知られていないため、ちょっとしたことで喧嘩になる。
むろん茂は多勢に無勢、コテンパンにやられる。
この部分ですね。
主人公の肉体的なダメージを描くシーンです。
肉体的なヤブレを描くコツは、目で見て分かる痛みを書くということです。
映像表現においては、「目で見ただけで分かる」というのも重要な要素です。
例えばこんな感じ
- 殴られる
- 事故などで怪我をする
- 病気になる
- 酒に溺れ、吐く
人に殴られたことはなくとも、怪我したことくらいはみなさんありますよね。
歯が折れたり、鼻血が出たり。
その「痛み」は誰にでも伝わるものです。
ヤブレでは、必ず精神的なヤブレと肉体的なヤブレの両方を描くようにしましょう。
そうすることで主人公のどん底感が増し、よりクライマックスが盛り上がります。
ヤブレを作る際の注意点

注意点は2つです。
- 注意点①:主人公に手加減をしない
- 注意点②:納得できる復活の動機を作る
注意点①:主人公に手加減をしない
初心者のころ僕もよくやってしまっていたのですが、ヤブレを手加減してしまうということがありました。
主人公をちゃんとどん底まで落とせていなかったのです。
これはいちばんやってはいけないことです。
生ぬるいヤブレは、生ぬるい物語を生みます。
ただ初心者の頃の僕は、主人公を痛めつけすぎると、続くクライマックスに向けて、どうやって主人公を復活させればいいのか分からなかったのです。
ここはかなり難しい部分ではあります。
コツはとにかく手加減せずに主人公どん底につき落とすこと。
そして主人公と一緒に復活の方法を死ぬ気で探すことです。
復活の方法を探すコツは、「注意点②:納得できる復活の動機を作る」というところに繋がります。
注意点②:納得できる復活の動機を作る
どん底に落ちた人間が、もう一度立ち上がるには相当な動機が必要です。
納得できる復活の動機を作るために、「骨法その五、サンボウ」で紹介したマズローの欲求の5段階説を思い出してください。

ピラミッドの下にあるものほど根源的で優先される強い欲求です。
つまり、どん底の人間がもう一度立ち上がるには、生理欲求の「死にたくない」という欲求がいちばん説得力がある動機になるということです。
「もうダメかも……」→「でもやっぱり死にたくない」というのは、バトルアクション映画やスプラッターホラー映画などで考えると分かりやすいかと思います。
ただ、それ以外のジャンルの話でも、同じです。
「死にたくない」というのは、物理的な死だけではありません。
精神的な死というパターンもあります。というか、こっちのパターンの方が多いですね。
精神的な死とは、主人公がいちばん大切なものを失うことを意味しています。
共感しやすいものとしては3つ
- 家族・兄弟
- 恋人(好きな人)
- 友人
これらを失いたくないと奮起して、主人公は復活します。
納得できる復活の動機を作るために、「主人公がいちばん大切にしているものは何か?」「失いたくないと願っているものは何か?」ということを設定段階で必ず決めてください。
最初のうちは、家族、恋人、友人の中から、主人公がいちばん大切にしているものは何かを決めるのがオススメです。
ヤブレを作る上で一番大切なこと

結論としては「クライマックスのために描く」ということです。
なぜヤブレを書く必要があるかの根本を理解しておくべきです。
高低差をつけると物語は面白くなる
ジェットコースターの原理と同じです。
あいのりの告白と同じです。
いったん下げて上がる、上がったら下げる。物語はそれの繰り返しです。
ヤブレでどん底に落として、クライマックスで復活する。ここがストーリーのうちで、いちばん高低差のある部分です。
ヤブレを描くのはクライマックスをよりいっそう盛り上げるためです。
面白い物語を書くために、下げて上がる、上げといて下げる、といった「高低差」を意識的につけてみましょう。
すべての物語はクライマックスのため
人それぞれやり方はあると思いますが、ストーリーを作る際にクライマックスを最初に作る方法は結構オススメです。
クライマックスは復活した主人公がアクションを起こすシーンです。
物語の中でいちばん盛り上がる部分です。
両親の仇を討ってもいいですし、愛する人の乗ったバスを追いかけてもいいです。
このクライマックス部分を先に作っておくと、ストーリーの向かうべき場所が分かり、物語自体も面白くなりやすです。
キャラクターの感情と行動がMAXで現れるのがクライマックスです。
物語とは人間の感情を描くものです。
それを目で見えるように行動で描くのがクライマックスです。
「すべての物語はクライマックスのため」
ぜひこれを意識してストーリーを組み立ててみてください。
というわけで今回は以上となります。

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次回は「シナリオ骨法その七、オリン」について書いていきたいと思います。
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